2021.03.11

避妊手術について(猫・女の子編)

子供を産ませる予定がないのであれば、前向きに検討して頂きたい避妊手術。
当院では5ヶ月齢を超えたら行うことをおすすめしています。
メリットとデメリットについてまとめてみました。

猫の性成熟と性周期

猫は通常6ヶ月齢頃(体重が2.4kgを超えた頃)から性成熟を迎え発情兆候を示しはじめます。
猫が特殊なのは、季節繁殖といって日照時間とも関連している点です。
これは、寒くて餌の少ない冬よりも、暖かい季節に出産した方が子猫の生存率が高まるからとされていて、春になると野良猫の発情の声をきくことが多くあるかと思います。
つまり、理論的には、日照時間の短い秋や冬に性成熟の月齢を迎える場合は、春に向け日照時間が長くなってきて初めて発情兆候を示すようになる、ということになります。
ですが、室内飼育の猫はその限りではありません。
太陽光だけでなく人工灯も発情に影響を与えるためで、室内飼育の場合は季節にかかわらず発情を繰り返してしまうことも少なくありません。
一回の発情の期間は約10日~2週間です。これを2~3週間感覚で2・3回繰り返し、1~2ヶ月の間をおいて再び発情兆候が始まるというパターンが多いです。
また、猫がヒトや犬と異なっている点は、発情のたびに排卵が起こるのではなく交尾刺激により排卵が促される点です(交尾排卵)。
ヒトや犬のようにタイミングがあえば妊娠・・というわけではなく、交尾後は確実に排卵しますので、妊娠する確率は100%に近いというわけです。
猫は単独行動を好む動物なので、野生だったころには少なかった「チャンス」を逃さないためこのようになっていると言われています。
確実に妊娠しやすいうえ、多産でもあり、1度の妊娠で平均5匹の子猫が産まれます。
そしてその子猫達が6ヶ月齢になればもう繁殖が可能になります。
何も対処しなければ、1匹が3年で2000匹へ増えてしまうとのこと。
猫の繁殖能力がすさまじいといわれる所以です。


では、メス猫の発情兆候とはどんなものでしょうか?
たまに、生理が来ていないからまだ発情はしていない、と考えてしまわれる方がいます。
猫には発情に伴う陰部からの出血はありません。
・ロードシス
…猫に特徴的なおしりを持ち上げる様子のことをいいます。
特に腰のあたりをなでると顕著に表れる仕草です。
・大きな声でなく
・頭や首をやたらとこすりつける
・ゴロンゴロン転がる
・外に興味を示す・出たがる
・活動的になる
・食欲がなくなる
・いつもと違うところでおしっこをしてしまう
このような仕草が発情兆候です。
とくにこすりつけや転がる様子は、甘えている猫によくみられる行動とも一致するので、猫によってはよくわからないかもしれません。
ただ、通常は発情していることはわかりやすく行動として表れ、近所迷惑なほどないてしまうから早く避妊手術してほしいとなることも多いです。

避妊手術のメリット

乳腺癌、その他生殖器疾患の予防ができる
猫の乳腺にできるしこりの8割が悪性の「乳腺癌」です。
これの予防効果が猫の避妊手術の最大のメリットといえるかもしれません。
では乳腺癌ってどのくらいの頻度で起こるのか?というと、
病気で亡くなる猫の死因の3割が悪性腫瘍ですが、
そのうち一番多い悪性腫瘍は「乳腺癌」というと、身近に感じるかもしれません。
乳腺癌はとても悪性腫瘍のなかでもたちが悪く、肺に高率に転移します。
詳しくは当院も参加させていただいていますキャットリボン運動のページをご参照ください。

では実際、避妊手術によりどのくらいの予防効果があるのでしょうか。
手術のタイミングの違いによる予防効果が具体的な数値で示されており、
6ヶ月齢前で91%、7~12ヶ月齢で86%、13~24ヶ月齢で11%乳がんの発生率が低下すると報告されています。
1才までと1才を超えてからとでガクっと予防効果は落ちてしまう上、
2才を超えてしまうと、残念ながら乳腺癌の予防効果はなくなってしまいます。
猫ではとくに「なるべく早期」の避妊手術が乳腺癌の予防に効果的といえます。


その他、犬よりは発症率が低いですが「子宮蓄膿症」という疾患も、重篤になりやすく、避妊手術により予防できるメリットを感じられる疾患です。


伴侶動物として、暮らしやすくなる
発情中の行動には個体差がありますが、大変な子は本当に大変です。
「あーおん」といった感じで一晩中なきつづけてしまうこともあります。
トイレ以外の場所でのおしっこの後始末も、とても大変。
危険がいっぱいな外に出たがってしまうのも、困りものです。


不幸な命を生まない
発情中、ちょっとした隙に外に出ていって、オス猫に出会ってしまったら。
実際、ほんの数十分だけだったのに妊娠して帰ってきてしまった、ということがありました。
望まない妊娠を防ぐことはやはりメリットとして挙げられます。
猫は繁殖能力が高いので、放っておいたら多頭飼育崩壊へ一直線です。

避妊手術のデメリット

手術に伴うリスク
避妊手術は、麻酔前検査を行ったうえで実施可能と判断した場合のみ実施します。
そのうえで、吸入麻酔による全身麻酔下にて、慎重なモニタリングをしながら行われます。
開腹し、卵巣のみ摘出する術式で、手術時間は約30分となります。
やはり全身麻酔下での開腹手術です。
万が一のことがないとはいえません。
麻酔薬に対する特異体質的な過敏反応を起こす子もいて、死亡する確率はゼロではありません。


太りやすくなる
避妊手術により生殖に費やすエネルギーがなくなるので、エネルギー要求量は3割ほど落ちます。その反対に、性欲がなくなるぶん本能的に食欲は2割ほど増します。
そのうえ成長するにつれて子猫のころのような運動はしなくなり、昼寝とひなたぼっこが趣味になっていきます。
代謝が落ちて運動しなくなったところに必要以上に食べてしまうので、太りやすいというわけです。
とくに避妊手術までの成長期は食事を制限することはなく生活している場合が多く、若齢だからと手術後もそのままの調子で与えていると、縦だけでなく横にどんどん成長してしまうので、要注意です。
太った猫はかわいらしいのですが、糖尿病や肝リピドーシスなど病気のリスクは満載です。
一定量の食事を与え、工夫して運動を促し、体型キープを目指しましょう。


子孫を残せない
どうしてもこの子の子孫を残したい、という場合にはすすめられません。
このことは、術後どうしても覆すことはできません。


手術の実際の流れについては次のページにまとめましたので、ご参照下さい。
避妊手術・去勢手術の実際について