2021.02.17

避妊手術について(犬・女の子編)

子供を産ませる予定がない場合には前向きに検討いただきたい避妊手術。
避妊手術のメリットとデメリットについてまとめましたのでご参考にしていただければ幸いです。

避妊手術をしないとどうなるの?

メスでは、小型犬で約6~8ヵ月、大型犬で約1~2才で初回発情を迎えます。
初回発情の兆候として飼い主様が気付かれるのは、多くは陰部からの出血です。
そのあとは約6~10ヶ月の周期をもってこれを繰り返すことになります(発情周期)。
少し長くなりますが、ここでは発情周期のそれぞれの期間について解説していきます。
お時間のない方はとばして避妊手術のメリットとデメリットのところだけでも読んでみて下さい!


はじめに、いわゆるヒートとよばれる期間は、正確には「発情前期」「発情期」といいます。
だいたい2~3週間つづき、陰部からの出血(目立たないこともあります)と、陰部の腫脹がみられます。
つづいて、発情期が終わると約2ヶ月の「発情後期」という期間がやってきます。
実は、この期間のホルモンバランスが犬では特徴的で、病気とも関連しやすくなっていますので少し詳しくお話します。


まず、一般的に哺乳類はふつう、発情期に妊娠が成立しなければ、卵巣の黄体機能が停止して黄体ホルモンが低下し、平常状態になります。
ちなみにヒトではここで生理が起こり、子宮内膜がはがれて更新されます。
(犬で発情期に起こる出血も生理とよばれますが、実は人間のものとは全然違うタイミング・メカニズムで起こっているんですね。)
黄体ホルモンとは、子宮をふかふかのベッドにし、妊娠を継続させるためのホルモンです。
犬が特殊なのは、発情期に妊娠が成立しなかったとしても、妊娠期間と同じだけ(約2ヶ月)この黄体ホルモンが分泌されつづけるという点です。
つまり発情後期の2ヶ月間、犬では妊娠する・しないに関わらず、妊娠期のようなホルモンバランスとなっているのです。
ということは、妊娠期のような変化もみられます。
通常は、軽く乳腺が腫れてうっすらと透明な液が分泌される程度です。
しかし中には白い乳汁が分泌されるほど乳腺が発達し、偽妊娠とよばれる状態になることもあります。
精神的に乱れやすく怒りやすくなる、巣作り行動をする、おもちゃを大事にして離さないといった行動変化、食欲低下などのつわり様症状も起こります。


その後、時間の経過とともに自然と落ち着き、約4か月の「無発情期」を過ごしたのち、次の発情がやってきます。
長くなりましたが、以上のような変化が、避妊手術を行わない場合には周期的に繰り返されることになります。


生殖器系のトラブルが起こりやすいのは、「発情後期」です。
黄体ホルモンは子宮をふかふかに保ち、子宮の出口(子宮頚管)をギュッと締め上げ、赤ちゃんを異物と感じないよう免疫力をあえて下げるホルモンなので、この時期にもし細菌が感染すると(陰部は汚れやすい部位なので感染が成立しやすいです)、子宮内には容易に膿みがたまってしまいます。
これが、犬に多い「子宮蓄膿症」という病気です。
中齢になってくると頻度が高くなり、急激な変化から死に至ることも多い、恐ろしい病気です。

避妊手術にはどんなメリットがあるの?

病気の予防ができる
卵巣と子宮を摘出するので、物理的に卵巣・子宮の病気は起こり得なくなります。
とくに先にお話した子宮蓄膿症を予防できるメリットはとても大きいです。

また、乳腺炎や乳腺腫瘍についての予防効果が認められています。
乳腺腫瘍は中~高齢の犬に発生する腫瘍で、良性・悪性の比率は50:50と報告されています。
手術のタイミングの違いによる乳腺腫瘍の予防効果は、初回発情前で99.5%、初回発情後で92%、2回発情後で74%と報告されています。
2.5歳を超えてしまうと悪性乳腺腫瘍については効果なしとのことなので、なるべく早期の手術が効果的です。
ちなみに良性腫瘍に関してはその限りではなく、年齢に関わらず避妊手術による予防効果があります。
予防効果にそこまで強い論拠はないとする論説ものちに発表されていますが、避妊手術により乳腺腫瘍の発生率を下げることが出来るという認識に間違いはないようです。
伴侶動物として、暮らしやすくなる
発情出血のお世話は少し大変です。
また、発情後期には妊娠期のような変化がみられるとお話しました。
このような不安定さから解放されるので、一緒に暮らしやすくなります。
また、発情は問題行動のきっかけになることもあります。
例えば、発情後期にホルモンの影響で怒りやすく咬みやすい時期があり、この間にその行動(咬むなど)を学んで行動パターンとして定着してしまったとします。
犬は学習能力が高い動物なので、のちに避妊手術をしたとしてもその行動を続けてしまい、問題行動として残ってしまう可能性があるのです。
そういった意味でも、早期の避妊手術は望ましいと考えます。
精神的に安定し、家族である人間の方をまっすぐ見てくれるようになれば、ともに生活する伴侶動物としても理想的な姿をみせてくれるようになります。
不幸な命を生まない
たとえば発情に気づかないままドッグランに連れて行ってしまい、たまたま去勢していない犬がいたら、妊娠してしまうかもしれません。
望まない妊娠を防ぐことはやはりメリットとして挙げられます。

デメリットは?

手術に伴うリスク
避妊手術は、麻酔前検査を行ったうえで実施可能と判断した場合のみ実施します。
そのうえで、犬種や体格など個体に合わせた鎮静・麻酔薬を投与し、気管チューブを挿入し、吸入麻酔による全身麻酔下にて、慎重なモニタリングをしながら行われます。
開腹し、子宮と卵巣を摘出する術式で、手術時間は約1時間弱となります。
やはり全身麻酔下での開腹手術です。
万が一のことがないとはいえません。
麻酔薬に対する特異体質的な過敏反応を起こす子もいて、死亡する確率はゼロではありません。
とくに短頭種では麻酔後に気道閉塞を起こしてしまうことがあり、手術が無事終わっても細心の注意を払って様子を観察する必要があります。
太りやすくなる
避妊手術により生殖に費やすエネルギーがなくなるので、エネルギー要求量は3割ほど落ちます。その反対に、性欲がなくなるぶん本能的に食欲は2割ほど増します。
代謝が落ちたところに必要以上に食べてしまうので、太りやすいというわけです。
とくに避妊手術までの成長期は食事を制限することはなく生活している場合が多く、若齢だからと手術後もそのままの調子で与えていると、縦だけでなく横にどんどん成長してしまうので、要注意です。
もちろん、一定量の食事を与え、適度に運動すれば、ちゃんと体型キープできます。
尿失禁の可能性
とくに大型犬で、手術後に尿失禁が起こることがまれにあります(術後数年して)。
性ホルモンが減少し、膀胱括約筋の収縮力が低下するためと考えられています。
子孫を残せない
どうしてもこの子の子孫を残したい、という場合にはすすめられません。
このことは、術後どうしても覆すことはできません。


避妊手術の実際の流れについては次にまとめましたのでご参照下さい
避妊手術・去勢手術の実際について